大学eラーニングの今

第5回 eラーニングならではの学習支援 信州大学インターネット大学院

コミュニケーションの支援

 遠隔教育を質の高いものにするには、学生同士のコミュニケーションが不可欠と不破教授は考え、コミュニケーションを促進する方法の開発にも取り組んでいる。

 そのひとつが,不破教授と同じ研究グループに属する國宗永佳助教が中心となって開発を進めている「Writable Web」という非同期型のディスカッションツールだ。同期型の学習で学生同士がディスカッションするには、チャットやテレビ会議システムがあるが、社会人学生は、みんなが同じ時間に参加するのは難しい。そこで、國宗助教と不破教授は教材を中心に、ディスカッションする方法を考えた。

 ウェブ上に置かれた教材に、学生が都合のよい時にアクセスし、「この部分が分からない」とマークしたり、特定の単語や文章、式について意見を書き込んだり、解法を提示したりできる。「教科書に赤線を引いたり、書き込んだりするイメージです。メモやマークを共有し、互いのメモやマークに意見を書き込んだりすることで、学生同士のディスカッションを進めたいと考えた」と話す。

「Writable Web」システムは学部で試用して、効果などを検討している。不破教授は「IT大学院で活用するべく準備を進めている。ただ、学生の書き込みに不適切なものや誤りがあってはいけないので、管理しなければいけない。教員の負担が大きくなるので、適正に運用する方法を考えなければいけない」と話す。

 不破教授の「学生同士のコミュニケーション」を高めるというねらいは、2007年度、長野県塩尻市の同市インキュベーションプラザに開設した「高度ものづくり専門職コース」でも貫かれている。このコースは情報工学専攻のコースで、組み込みソフトウェア技術者の育成を目指している。組み込みソフトは自動車,携帯電話,家電などに組み込まれ、車のエンジンを制御したり、ウインドウを開閉したりするソフトウェア、エレベーターなどの機器を安全に制御したりするソフトウェアで、家電をはじめ多くの製品に使われている。 

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教材ページにメモが書き込まれたWritableWebの画面。緑地の部分に関するメモがつけられている。

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書き込まれたメモに対するコメントを書く画面

 このコースの特徴は教室が塩尻市インキュベーションプラザ内にあること。学生はeラーニングで学ぶが、プラザ内で対面授業や実習も行う。教室の周囲には、組み込みソフトを開発する企業が入っており、企業の職員も授業を聴講したり、教室で他企業の職員や学生とコミュニケーションを取ったりすることができる。不破教授は「組み込みソフト開発には、快適な暮らしや安全に対するしっかりとした意識が必要です。そのためには、プログラムが書けるだけでなく、ドキュメンテーション能力、コミュニケーション能力を備えた総合的な人間力が必要だ。その力を育てるため、企業との壁をなくし、コミュニケーションが高まる教室を考えた。eラーニングで学ぶだけでなく、コミュニケーションで生きた知識、技術の育成を図りたい」と意気込む。

社会人学生の育成のために

 信州大学工学系研究科情報工学専攻では、社会人学生の教育機会の拡大、そのためのeラーニングの活用と有効な教育・学習方法の研究、開発を進めてきた。その中で、eラーニングで質の高い教育を実現するには、システムとコンテンツだけでなく、学生に対する適切な支援や豊かなコミュニケーション環境が必要であることに気付き、そのための取り組みを進めている。eラーニングの新しいステージを実現しつつある。

 「eラーニングをよいものにするには、コンテンツを揃えるだけでは十分ではありません。eラーニングも教育であり、そこに教員、人がかかわらなければいけないのです。同時に、学習履歴を見て指導することはeラーニングだからできることであり、eラーニングの優れた機能を積極的に活かしていかなければいけないと思います。信州大学では、多くの方がeラーニングを用いて遠隔で学んでいる実践の場があります。そして、そこからさまざまな問題点が明らかになります。幸い、信州大学にはこのことに対処する人がそろっています。それは、問題点を把握して新たなアイデアを見いだす優れた教育工学の研究者、そのアイデアをシステムとして実現するICT技術の研究者、そのシステムを実際に運用する教員と技術職員からなる社会人サポートスタッフです。そして、もちろんIT大学院で学ぶ多くの社会人の存在が大きいのです」と不破教授は話した。

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