大学eラーニングの今
第10回 ケータイで体験型の授業を実現 青山学院大学
◇ 出席確認とP2P
「10大脅威」のトップに挙げられているのは「Winny自動回覧ネットワーク」。Winnyはファイル交換ソフトの1つで、日本で開発された。ファイル交換ソフトはインターネットを通じて不特定多数のコンピュータ同士で電子ファイルをやり取りするソフトで、ファイルがたくさんのコンピュータの間を流れる。このような個々のコンピュータがつながる通信方式を「Peer to Peer」と呼ぶ。「Peer」は「対等の人」「仲間」の意味。「Peer to Peer」は「仲間をつないだ」というような意味合いで、「P2P」と略される。
ファイル交換ソフトを使うと、パソコンに保存してある音楽や映像、ゲームソフトなどのファイルを、他のファイル交換ソフトを入れたパソコンに送ることができる。そのため、著作権者に無断で、音楽やゲーム、映画などがばら撒かれてしまうため、著作権侵害など違法な情報流通を促進 していると問題になっている。
ファイル交換ソフトの問題を理解するには、情報の伝わり方を知る必要がある。P2Pとサーバ型の情報伝達を理解させるため、伊藤助教授は仕掛けをした。
伊藤助教は授業中に出席を取る。学生は授業中に示された「7623」というようなパスワードをケータイで指定の番号に送信すると、出席になる。第1週から第3週はパスワードを直接、口頭で伝えていた。授業の中で伊藤助教の指示があると、学生はその番号をケータイに打ち込む。ここまでの使い方をしている教員は他大学にも少なくない。
伊藤助教は第4週の資料に細工をした。別の情報を載せた資料と、パスワードを記していた場所に別の情報を載せた資料と、パスワードを記した資料の2種類を作成した。パスワードは載った資料は125枚中15枚、8~9人に1枚しか渡らない。学生は入口に置かれた資料を取っていくが、そのことには気付かない。

左上の資料には出席パスワードが書かれているが、右下の資料の同じ場所には別の情報が載っている。
仕掛けが完了したところで、授業中に出席を取る。学生は当然、混乱する。あちこちで私語が始まる。一方、パスワードの記された資料を取った学生は、何の疑問も持たずにケータイで送信する。状況が分からない学生は、隣の人に聞いたり、周りの様子をうかがったりする。教室の前にあるスクリーンには出席確認状況が表示される。パスワードが分からない学生はパニック状態になる。パスワードを知っている学生がいることを知り、相互に聞いたり教えたり、情報収集を始める。「エーッ」という驚きの声があちこちで上がる。幸運の資料を持った学生から、パスワード情報が次々他の学生に広まっていく。

パスワードの情報は学生から学生に伝わっていく
伊藤助教は「この風景は見ていて面白いですよ」と笑う。出席確認が終わったところで、9枚に1枚出席パスワードが書いてあるという種明かしをし、「みなさんが、隣の人に聞いたり、友達に教えたりする情報の伝わり方がP2Pだ」「前の週までのように口頭で一斉に伝えていたのは、単一のソースから情報が流れるクライアントサーバ型の伝わり方だ」と違いを説明する。学生はサプライズの体験とともに、P2Pとサーバ型の情報伝達の違いを胸に刻む。
その上で伊藤助教は、「P2Pという技術自体は悪いものではない。有用な情報であれば、P2Pを使うメリットは小さくない。体験してもらったように、不特定多数の人に瞬時に情報が回る。今回は有用な情報だったからいいが、もし、意図しない情報や悪意のある情報、あるいは著作権を侵害する情報だったらどうだろう。そういう情報でもP2Pだと今日のようにすごい勢いで広い範囲に回ってしまう」と、使い方を誤ると問題を起こすこと、セキュリティ、モラルをおろそかにしてはいけないことなどを説明した。
